昨夜の事。 歯に優しい食べ物を求めて粥→茶漬けという連想を経てカレーに辿り着いたのは、帰りの電車に乗る直前だった。 野菜カレーにしよう。茄子がたべたい。 ほうれん草トッピングなんかどうだろう。 電車の中では野菜カレーのことばかり考えていた。 はずなのに。 「ご注文はお決まりでしょうか?」 「えーと、なすとほうれn」 「カツカレーください」 隣に座っていたおっさんの一言で、頭からナスがどこかへ消えてしまった。 「・・カツとほうれん草で」 歯がいたいのにまたなんでこんな歯応えのあるものを選んでしまったんだと後悔はしたが、今はカツを味わう時。 「お待たせしましたー」 カリカリに揚がったカツが食欲をかきたてる。 カレーを軽く絡ませ、カツの端を一切れ口に運んだその時だった。 痛くない右側で慎重に噛んだつもりが、左側の歯が鈍い音を立ててかみあってしまった。 会うはずのない二人が出会ってしまった衝撃。 この日のカレーは涙の味がした。 この先、左の奥歯が疼く度に思い出すのだろう。 流されやすい自分の迂濶さと、カツおじさん(仮名)の横顔を。